2011-01-01から1年間の記事一覧

イギリス映画「Bright Star」、Jane Campion, 2009、イギリス

ジョン・キーツとその婚約者との悲しい愛の物語。 美しく、静かな話がつづくが、もちろんその底には清楚で激しい愛のゆらめきが脈打つ。 キーツは夭折したイギリスのロマン派詩人、わたしも対訳詩集(英語と西語)を持っているが、その世界にはいっていくの…

イタリア映画「BAARIA 「シチリア!シチリア!」」 Giuseppe Tornatore、2009、イタリア

イタリアが戦中、戦後をいかに生き抜いていったかを、エピソードの積み重ねによって描く作品だと思った。 しかし本土ではなく、島嶼部であり、しかもある家族がとりわけ描かれているのに気づく。 戦中、戦後史といったものをどう語っていけばいいものか、こ…

オーストリア映画「Das Weisse Band(「白いリボン」)」、2009、Michael Haneke 、オーストリア、ドイツ、フランス

北ドイツの農場にて奇怪な事件が相次ぐというミステリー仕立て、そうでもしなければこんな暗い話に観る者をひきつけておけないといった具合。 犯人捜しは、まず外部の人間を考えるが、それは困難でもあり、明かされない真相はだれの胸にも宿るにいたる。 そ…

メキシコ映画「El infierno」、Luis Estrada, 2010, メキシコ

メキシコでいま、なにが起きているのか。 じつは当今騒がれているナルコの問題は氷山の一角である。 ラテンアメリカのみならず世界で進みつつあるのは、地方(農村)の荒廃と、都市のスラム化である。 メキシコの場合ならば、地方の荒廃とはじかに米国への出…

米国映画「The American」、Anton Corbijn, 2010, 米国

プロの殺し屋を演じるジョージ・クルーニーは、イタリアの山あいの町での仕事で、べつの生き方を捜すことにしたいと思う。 かれは孤独であり、寂寞感に悩み、神経のやすらぐときがなく、不条理感を体現しているといってもいいほど。 山あいの町はひなびてい…

米国映画「Cryus」、Jay Duplass, Mark Duplass、2010、米国

ジョンは離婚した女となおもおなじ家に住んでいたが、女はあらたに再婚。 優柔不断でどこといって取り柄がなさそうな、さえないジョンは、ひょんなことからパーティーにてある女モーリー(マリサ・トメイ)と知り合う。 このふたりはすっかり意気投合する。 …

メキシコ映画「Seguir siendo: Cafe Tacuba」、Ernesto Contreras, Jose Manuel Cravioto, 2010, メキシコ

カフェ・タクーバとは20年とちょっとの歴史をほこるメキシカン・ロック・バンドであるが、ロックといえば今ではメタル系が多いなかでこのバンドはミック系である。 じつは20年も前、ポランコの屋外コンサート会場アンへラ・ペラルタにてすでにわたしはこ…

メキシコ映画「Perpetuum Mobile」、Nocolas Pereda、2009、メキシコ

ガビノは、引っ越し屋をひとりの仲間と細々と営むながら母親と住む。 家族やら血のつながりが薄くなり、このふたりもただひっそりと、ぎりぎりに暮らすのみ。 ガビノは、引っ越しを通して他の家庭を覗き見て、やりきれない思いを抱く。 つまり引っ越しという…

オーストリア・イタリア映画「La Pivellina」、Tizza Covi, Rainer Frimmel, 2009, オーストリア・イタリア

どんな名優、女優も子役には食われてしまうものだと俗にいわれる。 サーカスで働く老いが目立ってきた夫婦、そのおばさんが取り残されていた女の子を見つけ、自分のところに持ち帰る。 ふうつならそれこそ誘拐にあたいするが、このおばさん、冴えないようで…

アルゼンチン映画「La mirada invisible(見えない視線)」、Diego Lerman、2010、アルゼンチン

軍事独裁下のアルゼンチン、巷には抑圧だけが拡がる。 ある高校の女性教師も厳しく生徒を監視。 しかしこの女教師の抑圧は、他者へのみではなく、自己にも向けられているのがわかる。 祖母、母、マリア・テレサと三人で住んでいるが、どうやら母はシングルマ…

デンマーク映画「Antichrist」、Lars von Trier、デンマーク、ドイツ、フランス他、2009

Willem DafoeとCharlotte Gainsbourgとがぶつかりあう、というと聞こえがいいのだが。 この夫婦が愛の交わりのさいに息子が転落死して奥さんのほうが精神に異常をきたす。 夫はたまたま精神科医であり、奥さんへの治療を試みるが、奥さんの異常は深刻化する…

メキシコ映画「Tin Tan」Francesco Taboada、2009、メキシコ

パチューコということばをはじめて聞いたのはもちろんオクタビオ・パスの著作でのことであった。 北部の奇抜な恰好やら言葉遣いをするひとたちということで、チカノとも似ているが、よりアイデンティティに意識的である。 ようするにメキシコと米国という相…

メキシコ映画「Rabia」、Sebastián Cordero、2009、メキシコ、コロンビア、スペイン

スペインの富裕な老夫婦のもとで働く、南米からのメイドさんがいる。 おなじく南米からの青年がメイドさんと恋仲になっている。 このホセ・マリアは建築業に勤めるが、上司と衝突し、殺人までおかす。 このホセ・マリアは富裕な老夫婦の屋敷に忍び込み、屋根…

米国映画「The Messenger 」、Oren Moverman、2009、米国

イラク侵略戦争がもたらすものを、戦場ではなく、本国を通じて描く。 戦死通知を犠牲者の家族に知らせにまわるもので、そこでは悲しみのみでは言い切れない、コンフリクトがうまれることになる。 はるかな昔、高校生だったとき、サローヤンの作品にて、第二…

メキシコ・スペイン映画「Biutiful」、Alejandro González Iñárritu、2010、メキシコ・スペイン

ここでわたしたちの知っているバルセロナとは異なった街が現れる。 不法移民労働者の街である。 アフリカからの黒人移民は、スペイン語圏アフリカにかぎったことではなく、しかも違法露店を営み、官憲とのトラブルがたえない。 中国人移民もいて製造業などに…

スペイン映画「Diario de una Ninfomana(Diary of a Sex Addict )」、Christian Molina, 2008、スペイン

容貌も社会階層的にもめぐまれたスペイン人の女のひとが、性の悦びの充実を求め続ける。 しかし現代社会は欲望を刺戟・増長させるものであるが、みだりにそれに身をまかせると破滅をもたらすことが避けられない。 舞台はバルセロナ。 女のひとが男に身をまか…

メキシコ映画「Año Bisiesto(うるう年)」、Michael Rowe, 2010、メキシコ

メキシコ映画のタブーを打ち破ったものとして高く評価されている。 内容が破格なわりに、語りのトーン、シーンの撮り方が冗長で、ひと昔まえの(退屈な)「国内映画」をわたしにはまず思い起こさせた。 地方から出てきたラウラとよばれる田舎の少女、色黒で…

アルゼンチン・メキシコ映画「Te extraño」、Fabián Hofman 、2009、アルゼンチン・メキシコ

70年代から80年代にかけてのアルゼンチンの軍事独裁政治、およびその犠牲者。 主人公の少年から青年への時期、家族の問題などもかかえつつ、叔母のいるメキシコへと亡命。 兄は行方不明者のリストに加わる。 この主人公は、製作者であるこの監督自身の問…

イタリア映画「Vencere」、Marco Bellocchio、2009、イタリア

歴史の暗部を描く。 ヒットラーと比べるとムッソリー二の実像というのはあまり描かれていないと思う。 ムッソリーニの初めの夫人となり息子も持つが、のちにムッソリーニにより否定され、母子ともども精神異常者として隔離・幽閉されてしまった二人について…

フランス映画「Les regrets」、セドリック・カン、2009、フランス

世界各地で毎年開催されているフランス映画月間もことしで14回目。 その一本を見ようと思い、シネテカまで足をのばす。 話は、昔こいびとだった男と女が出会い、再燃するというもの、もちろんお互いに相手がいて、いわばフリン物。 男のほうはまっしぐら、…

メキシコ映画「El informe Toledo」、Albino Alvarez G. 、2009

フランシスコ・トレドはメキシコの現役の画家のうちではもっとも著名であるが、その全体像が巨大であるだけにどう近寄っていけばいいのかわからない。 しかしここにトレドを扱った映画作品が撮りあがった。 カフカのアカデミーへの報告を出発点、つまりトレ…

スエーデン映画「MAN SOM HATAR KVINNOR/THE GIRL WITH THE DRAGON TATTOO/MILLENNIUM(「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」)、Niels Arden Oplev 、2009

世界的なベストセラーの映画化、という話だが、わたしはあまり知らなかった。 はじめは、松本清張のようなお金持ち家族の謎解き、それがナチス絡み、ユダヤ人絡み、またはサイコ系、そして武器密輸とか変転するが、もっとも注意を引くのは、謎を追いかけるわ…

イギリス映画「Dorian Gray」、Oliver Parker 、2009、イギリス

オスカー・ワイルドの手になるこの原作を、恥ずかしながらわたしは読んでいない。 今回で三度目の映画化だという。 美貌というか、永遠の若さに自他ともに翻弄される話であるが、本来ならばゴチック性がより濃厚に浮き彫りにされるはずのものかもしれない、…

フランス映画「Un prophète」、Jacques Audiard、2009,フランス

このように優れた映画作品については、観ているあいだに五十くらいのことを考える。 しかし数時間後に思い出そうとして思い出せるのは、せいぜいが二十か十五くらいのこと。 しかも後に、他のひとに語ったり、書き記そうとしたとき、言い表せるのはやっと三…

米国映画「インセプション(Inception)」、Christopher Nolan、2010、米国

夢の多重構造などを、もともとはボルヘスの短篇などにより、典雅に繰り広げたもの。 生臭い話がからまり、ポピュラーな映画の要素、重火器やら逃走劇、ファイティングなどがちりばめられ、おおいに見世物として成功している。 しかし話が派手になればなるほ…

米国映画「Food, Inc」、Robert Kenner、2008

食べ物にいかに関心を抱くか。 いま、なにを食べているかを考えられるか。 たとえば米国では、牛肉などの食肉生産現場は寡占がすすみ、工場と化しているほど。 もちろん豚にしろ鶏にしろもおなじこと。 一年まえに豚インフルとかいうことで、メキシコの豚肉…

ドイツ映画「The Last Station(「終着駅 トルストイ最後の旅」)」、Michael Hoffman、2009、ドイツ、ロシア、イギリス

トルストイは、「戦争と平和」やら「アンナ・カレーニナ」などを著しながら、人道主義に傾いていき、それを慕うひとが絶えず、トルストイ主義という運動体にいたる。 トルストイの掲げる理想とはべつに運動体としての利害がそこにかかわってくると、そこにも…

日本映画『崖の上のポニョ』、宮崎駿、2008、日本

シネテカでは今月いっぱい、マティネにて『崖の上のポニョ』が上映されているということで、この機会を逃してなるものかと駆けつける。 三四ヶ月前に商業公開され、その際にぜひ見ておきたかったが間に合わず。 あまり商業公開も話題にのぼらなかったように…

メキシコ映画「Abel(アベル)」、ディエゴ・ルナ、2010、メキシコ

あのディエゴ・ルナの監督第二作目、一作目はボクサーのフリオ・セサル・チャべスについてのドキュメンタル。 今回のプロデューサーには僚友のガーエルのほかにあのジョン・マルケビッチが名を連ねているのに驚く。 少年アベルは九歳程度で、精神疾患をかか…

アルゼンチン映画「El secreto de sus ojos(瞳の奥の秘密)」、 Juan José Campanella2009、アルゼンチン・スペイン

ニホンでは去年のスペイン映画祭で公開済み、それで今年のオスカー賞の外国映画部門を受賞、さらにふたたびニホンでも夏に一般公開が予定されている。 例によって前もってはなるべく内容を知らずに心して見る。 必死にストーリーを追う。 劇的かつ、アルゼン…