フランス映画「Un prophète」、Jacques Audiard、2009,フランス


 
このように優れた映画作品については、観ているあいだに五十くらいのことを考える。
 しかし数時間後に思い出そうとして思い出せるのは、せいぜいが二十か十五くらいのこと。
 しかも後に、他のひとに語ったり、書き記そうとしたとき、言い表せるのはやっと三つか五つぐらいのことでしかない。
 残念ながら、そんな事実がある。

 フランスに増えつつあるムスルマン社会、19歳のマリクは六年の刑をうける。
 しかし刑務所のなかは、争いの巣窟、とりわけコルシカ・マフィアとムスルマン・グループが対立。
 マリクはなんとか生き延びようとして、まずはコルシカ組に取り入り、やがてのちに部分的に外へ出られるようになった期間もふくめ、コルシカ組の主にドラッグ関係とその人脈についての殺人がらみさえ関わる特務を果たしていく。
 しかし流れがかわり、ムスルマン側に寝返り、ようやく釈放されたのちは、まともに生きようと努める。
 この内容で、二時間半、かつてのフランスのフィルム・ノワールといった具合に暗黒さが漂うが、それでもマリクの個人的な努力、それは保身といってもいいのかもしれないが、終始、緊迫感がみちる。

 ドラッグ抗争が前面に出てくるし、刑務所内での争いを見ていれば、まさにこの作品のメキシコヴァージョンさえ浮かんできそうだ。
 メキシコでも囚人間の諍いやら看守への抵抗など、すくなからぬ死傷者を出しているという現実がある。
 しかもドラッグ抗争については、もはや政府側は苦渋の色を濃く出すようになっていて、メキシコ大統領まで合法化の道を暗示するまでにいたっている。
 いくらドラッグ幹部を逮捕、収監しようとも、刑務所内からあいかわらずコントロールするなどというのは、ごくあたりまえのことになっている。

 ああ、このような連中とは決して関わりたくないよ、というのが正直な感想(笑)。


(2010/08/08)