日本映画『崖の上のポニョ』、宮崎駿、2008、日本
シネテカでは今月いっぱい、マティネにて『崖の上のポニョ』が上映されているということで、この機会を逃してなるものかと駆けつける。
三四ヶ月前に商業公開され、その際にぜひ見ておきたかったが間に合わず。
あまり商業公開も話題にのぼらなかったようにみえたが、このマティネでは家族連れでほぼ満杯。
まずなによりも絵の美しさに打たれる。
とりわけ背景がパステル画のようにやわらかいトーンで、しかも水の色、透き通った水際などほれぼれするよう。
この色合いはセザンヌのような後期印象派、あるいは初期表現主義的か。
舞台は瀬戸内海らしく、調べると鞆の浦だとか。
そこには何十年もまえに訪れたことがあるはず。
しかも海が美しいだけではなく、汚れにもまみれていることがよく描かれている、それが現実なのである。
さらに後にはこの海が荒れてきて、その怖ろしさのようなものもよく描ききれているのに驚く。
とりわけ子どもにとっては海とは未知、および憧れをそそるが、原初体験としては怖れがなによりも主題的である。
さて、ストーリーについては、メキシコでのタイトルは「El secreto de la sirena」(人魚の秘密)。
これではすべてが台無し、という気もする。
これでは、多くのひとがどこがアンデルセンに似てて、どこが似てないかを詮索してしまいそうだ。
ある程度までストーリーを捨ててまでイメージの美しさに凝ったようなところがあるから、見えるとおりに受け取ってほしかったというのが製作者の願いではなかっただろうか。
だから老人問題もとりあげられているものの、主人公の男の子の内面性の複雑さとか社会的コンフリクトの端緒というようなものはあまり振り向かれていなかった。
そんなところが海外での人気に水をさしたのか。
ちなみにわたしは宮崎作品でもまだ見ていないものが数本はある。
(2010/06/14)