メキシコ映画「Abel(アベル)」、ディエゴ・ルナ、2010、メキシコ



あのディエゴ・ルナの監督第二作目、一作目はボクサーのフリオ・セサル・チャべスについてのドキュメンタル。
 今回のプロデューサーには僚友のガーエルのほかにあのジョン・マルケビッチが名を連ねているのに驚く。

 少年アベルは九歳程度で、精神疾患をかかえ地元のアグアスカリエンテス市の施設で療養。
 それが母親の願いで帰宅療法を試みる。
 家庭は、シングルマザーにちかいセシリア(裁縫で身をたてる)に姉と弟。
 しかしアベルは家庭にて異常を感じ、はじめは環境不適応の兆候が強かったものの、TVにてメキシコの古い映画の家長を見馴れていくにしたがって、自分のアイデンティティを家長に同調させていく。
 かくして家庭内で専制さを強めていく。
 そんななか、米国に働きに出たまま二年程、まったく消息の知れなかった父親が戻ってくるが、もちろんアベルは家長の座を譲ろうとはしない。
 家庭内の軋轢がつよまり、ついにカタルシスに、つまりアベルは弟を連れて失踪。
 しかし二人とも家庭に戻り、不興の父親は米国に戻り、アベルメキシコシティのより専門的な病院へと送られる。

 話としてはローカルであるが、父親の不在をどうカバーするか、あるいは父親の存在などはじめからフィクションだと思ったほうがいいものなのか。
 とりわけニホンでは近年、父親の存在感が薄くなっているので、心あるひとにはおおいに考えさせるものがあり、おもしろおかしいところが充満しているものの、無垢に笑い飛ばしておけるようなしろものではない。

 カンヌに出品された作品、しかし派手さに欠けるので、ニホンの映画興行マーケットに入れこめるかは疑問でもある。
 テーマソングはフリエッタ・べネガス。


(2010/06/13)