フランス映画「Pour elle」、Fred Cavayé、2008, フランス

 フランスにて幼い息子をあいだにはさみ、深く愛し合うカップルの奥さんのほうが殺人の冤罪によって刑を科される。
 状況証拠からみても判決を覆すことは困難、家族が崩壊の淵に立たされることをみかね、温厚だったはずの夫が綿密に脱獄計画を練り、目的が手段を正当化するといった具合にすべてを脱獄、および国外での家族の暮らしのために犠牲する。
 ほとんど冤罪から逃れるために他の犯罪をおかすといったような成り行き。

 こんなとき、大半のひとたちにとっては(わたしもそのひとりであるが)諦めるしかない。
 相手は国家という司法・警察システムなのだ。
 そこを執念の鬼と化したかのように突き進むご主人は、倫理的、道徳的判断とはべつに、理性をこえた意志的存在としての人間を感じる。
 ここではもはやポリティカリ・コレクトの論理は退けられてしまう。
 
 とはいうものの、これほどまでの奥さん、家族への執着というのはいまの世界、すくなくともニホンにはどれだけあるものだろうか、と考えこまざるをえない。
 奥さんは、夫がほかの相手を見つけたのではないかと疑い始めることもあったが、残念ながらそれが普通なのでもあろう。
 その意味ではこの物語は崇高であるとともに、いくらかやっかみをいれたくもなるのが本心でもあるかもしれない。

 スリラー仕立ての展開であり、構成がたくみ、ゆえにハリウッドにてリメイクも作成される。

 シネテカにて。

            (7 de febrero, 2011)