米国映画·"Precious", リー・ダニエルズ, 2009,米国


ひとを教える、ひとを導くことはむずかしい。
だれに、なにを教えるのか。

かつてはロビンウイリアムズ主演の"いまを生きる(Dead Poets Society)"(1989)が、喝采をあびた。
しかしこれは米国のエリート、あるいは将来のエスタブリッシュメントを対象にした教育の問題で、詩人の話が出ていても、いかに人生で勝負し、バイタリティをたもっていくかという話で、わたしはあまり好きになれなかった。

一方で1988年には、"Stand and Deliver"という作品が上映されているが、二ホンでは上映されなかった模様(スペイン語タイトルは"Con ganas de triunfar(勝つつもりになって)"。
主演はチカーノ系の Edward James Olmesで、米国でのメキシコ系移民の高校生を扱ったもの、都市の場末にて学習意欲のない学生たちに数学教師が、いかにとけこんでいこうとしているかが描かれた秀作。

いま、米国で、世界で問題となっているのは、エリートを養成することではなく、学びの道を、いかに広げていくか、学びの喜びをどう教えていくか、学びを通じてひとの価値をどう伝えていくかにかかっていると思われる。

今回のアカデミー賞でもノミネートされたこの作品は、都会にてインセストやらマージナルな家庭やら、自分の存在価値をどこに見いだしていくか、ひとを目覚めさせるには、ひとと通じ合うにはどうすればいいのか、といった問題がびっしり詰まっている。

いま、このときに観たい映画である。


(2010-03-09)