メキシコ映画「Los que se quedan(「残されたものたち」)」Juan Carlos Rulfo, Carlos Hagerman 、メキシコ(2008)

ひとは仕事をもとめて南から北へと流れる。
 現代の世界では労働人口の移動(合法・不法)が問題の焦点のひとつであり、メキシコを例にとれば、メキシコから米国への密入国者たちがテーマになる。
 それはいまではずいぶんとその労苦を中心に語られている。
 しかし残ったひとたち、残されたひとたちも当然、おおきな影響をうけるが、それはあまり語られてこなかった。

 遺されたものたちの、淡々とした日常生活をカメラは丹念に追っていく、それは単純ではあるかもしれないが、不在するものたちに裏から照射されて、独自の意味をもたざるをえない。
 米国に渡ったものの身を案じ、そこから送られてくるお金を頼りにし、とにかくこういった依存関係を抜きにしてはなにも語れない。

 いくつもの(家族)ケースが取り上げられていて、それはさほど長くもない時間ということで、断片的ではあるが、それでもひとりですべてを語ってしまっているのではないかという妄想をさえ見てる側は抱いてしまいそうだ。

 ああ、観光的なレベルではけっしてないが、美しいメキシコの姿がにじみ出ている。
 ここを去らなければならないのは、まぎれもない悲劇である。
 しかし悲劇がなければなにも始まらないのだろうか?
 
  

          (2009/11/01)