メキシコ映画「Los bastardos(「私生児たち」)」Amat Escalante、2008, メキシコ

メキシコから米国へあてどもなく働きにいく者たち。
 仕事にしろ暮らしぶりにしろ、労苦がたえない。
 かれらの苦しみやら悩みを描いた作品は数多く、お涙ちょうだいモノまでしっかりそろっている。

 しかしタランティーノ並に、politically correctならざる作品もあらわれる。

 ふつうの不法移民者として辛酸をなめたふたり(少年と壮年)が、主婦のみの住まいに侵入し、もてあそぶのである。

 この米国人主婦は、まだ器量もあまり衰えていないが、なによりも夫はどこにいるかわからないし、息子もそとをほっつき歩くという、孤独感に苛まれているおんな。

 しかもこのふたり、まるでこの米国人女性の抹殺を引き受けたような見方もできるようになっている。

 しばらくこのふたりは、米国の家庭を垣間見て、言葉少なにだが、感じるものはあったはず。

 しかし半ばアクシデント的に米国人女性は殺されてしまい、しばし惨劇がつづく。

 かくしてメッセージなど混ぜずに、事実だけを積み上げていくという作り方、かつ演じるのは素人ばかりで、その意味でも痛切、なぜならすぐ隣で起きているようなことが語られているのだから。

 きわめてインパクトがあり、むげにひとには勧められないと思う。


              (2009/08/05)