メキシコ映画「Sin nombre(名もなく)」(2009)




・「Sin nombre(名もなく)」Cary Fukunaga,メキシコ(2009)

 米国へ不法侵入してメキシコよりもめぐまれたお金を稼ごうとするメキシコ人はとりわけ国境にておおくのトラブルに見舞われ、それは米国にとってもメキシコにとっても社会問題化し、量的にも質的にも多くのことが語られてきたし、じっさい映画のテーマとしても注目をあびている。

 しかし米国との国境を目指すのはメキシコ人だけにかぎらない。
 世界中のひとが北上してくるのであるが、とりわけ中央アメリカの国々にとっては、アメリカンドリームはいまでも脈打っている。

 さらに中央アメリカの国々はむしろメキシコよりも社会的に荒廃しているところが多く、いわば自棄的に国をすてるひとたちもいる。

 しかも中央アメリカではマラ(Mara, Mara Salvatrucha)という若者の徒党化した、マフィア的な組織が育ち、その国内のみならずメキシコ領土内にてもこの若者たちの脅威は抜き差しならぬものがある。

 このマフィアは全身を特異な刺青で彩り、奇怪な指文字を用い、内的同一性を強固にたもっている。
 さながらチカノから派生したパチューコ的存在か。

 そんなごく普通のホンデュラスからの不法侵入をはかる者たちと、マラとのコンフリクトがあり、そこにメキシコと中米国境あたりの若者のトラブル、および愛がからみ、社会事象をこえてドラマ性をたかめていくのがこの作品の内容。
 なお中米あたりからの移動民は、(貨物)列車を使用することが多い。
 またホンデュラスではvosを使っているようで、南米的なスペイン語である。

 プロデューサーにガーエル、ディエゴが名をつらね、カナナ社のプロデュースということになっているが、この日系新人監督(米国国籍)は長編第一作にもかかわらず、その完成度がたかく、その意味でも注目されている。

 米国のサンダンス映画祭でも好評をえて、米国でもわりと名を知られた作品、順当にいけばニホンでも上映される機会が多いにありそうである。



(2009/05/19)