フランス・ベルギー映画「Thomas est amoureux(「トマ@トマ」)」(2000)
「Thomas est amoureux(「トマ@トマ」)」Pierre-Paul Renders 、フランス・ベルギー(2000)
科学技術の進歩のすえに人類はどこに行き着くものだろうか。
そこでは、権力の不謬性のみが支配する、開高健いうところ、あるいはザミャーチンらいうところの、デトピアなるものとは異なり、科学技術にくるまれた、安楽さのみが際立っているのかもしれない。
人間性の希薄さ、三十二歳になる主人公のトマスは、もう八年にわたって誰にも直接には会っていない。
すべてモニターを通してしか接触しないし、カウンセラーやら保健エージェントらとも同様である。
いわば完璧な引きこもりではあるが、コミュニケーション能力にはおとっていなくて、モニター上の人物とは日常的にやりあうことができる。
保健会社のほうのすすめもあって、トマスは、サイバーセックス、あるいはヴァーチュアルセックスにかかわる。
相手、つまり人形であるし、五年以上もまえの作品であるので、動きに稚拙さがありはするものの、そのむき出しの尻やら腰がなまめかしい動きをみせると、見ているこちらまでなんだか妖しい気持ちになってくる(笑)。
人形とばかりでなく、生身のおんなもイメージとしてあらわれる。
その何人かとトマスはことばのやり取りをかわすようになる。
しかしそのなかで、みょうにいやいやながら応対するおんなにトマスは妙に惹かれ、禁止されているにもかかわらず、個人的にかかりあおうと追い求める。
もちろんこのおんなにとっても意外であるし、トマス本人も思わなかったような進展になる。
さいごは、このおんなにじっさいに会うために、八年ぶりに自分の部屋を抜け出るにいたる。
トマスがニンゲンとの接触に歩み出たということでは、希望をあたえるラストになっている。
だが、これも製作者の思想によっては、絶対的にニンゲン的なものを遠ざけるという可能性があったにちがいなく、やはり曖昧性が残る。
とにかく、サイバーセックス、ヴァーチュアルセックスについてもあれこれ考えさせられる。
ニホンにて一部的に公開済み。
(2008/06/23)