イギリス映画「Irina Palm(「やわらかい手」)」(2007)

 ・「Irina Palm(「やわらかい手」)」Sam Garbarski、ベルギー、ルクセンブルグ、イギリス、ドイツ、フランス(2007)

 未亡人のマギーと息子夫婦。
 その孫が難病、イギリスからオーストラリアまで移す必要があるが、資金難(このあたり、イギリスの医療をおおいに讃えていた「シッコ」のマイケル・モーアに解説していただきたい)。

 はげしい躊躇のすえに、テーブルダンスのクラブのオーナーと交渉し、セックス産業にかかわることに。
 オーナーによるとニホンで発祥とされる、壁の穴に男性器を差し込み、反対側でおんなが射精にいたるべく刺戟するというもので、同僚のルイサに指導をあおぐ

 専業主婦として生きてきて、なんの取り柄もないと思われていたマギーであったが、じつはその掌による男性器の扱いは、評判をよぶ。

 以前に予告編を眺めたときは、このあたりまでは想像できたし、それほど興味深いものとは思えなかったが、たまたま今日はこの作品を観る破目になった。ベルリン映画祭うんぬんなんてことも知らなかった。

 お金はでき、孫と息子夫婦の必要な分は稼ぎとおす。
 しかし、大金に不審をいだいた息子によって、事情があばかれ、息子と母のあいだにおおきな緊張がはしる。
 それも嫁が子ども重視を徹底させ、さいごには和解にいたる。

 マギーに客が集まりすぎ、同僚のルイサは失業し、マギーをうらむ。
 ルイサは夫の暴力にたえかねて、子どもと暮らしているが、生粋のイギリス人ではなく、南のほうから流れついたような雰囲気。
 魅力がないわけではないが、肉体的に豊満ではないために、テーブルダンサーとしては働けない模様で、前途多難そう。

 マギーのすぐれた評判によりほかのより派手なセックスビジネスから引き抜きがあらわれる。
 ルイサのような使い捨てを怖れ、マギーは移転を考えるが、それまで冷たい顔のみであったオーナーが、きゅうにひとの顔を見せはじめ、マギーにこころの内まで明かしはじめる。
 このオーナーにしても、旧ユーゴスラビアあたりの移民出身であるらしく、それなりに過去がある。

 マギーはそれまでは、郊外の町のヒマヒマしている主婦群と興じているのみであったのが、ひとというものを知り始めていく。
 ーー目覚めたのだ。

 主演のマリアンヌ・フェイスフルは、わたしが高校生のころは、ミック・ジャガーの恋人だとかいわれていた。
 しかし、その後、人生の転変を生身で味わったらしい。
 作品のはじめのころは、ほとけさまか何かのように、無表情、かつ悟りきった顔つき。
 それが、しだいにひとの顔になっていく。

 と言う具合に、いくつかの流れが織りあわさった、ふかい歓びをもたらしてくれる作品であり、はっきりいって、予想外に完成されている。



(2008/06/08)