アルゼンチン映画「Bar El Chino」(2003)

・「Bar El Chino」、Daniel Burak、アルゼンチン(2003)

 アルゼンチン、あるいはブエノスアイレスは、タンゴの街である。
 ひとはさまざまにタンゴを思い描き、そして踊る。

 それで、あるひとつの伝説的なタンゴバーはいかなるものか。

 この「エル・チノ」と呼ばれるバーは、ある歌い手から名をとったらしいが、なんとも狭いところである。
 若いひとたちもいないわけではないが、お歳をめした方たちが、のめりこむように聴き入り、そして朗唱にくわわる。
 あるいはニホンでもかつては存在したといわれる、歌声喫茶のようなものにも転じる。
 そして歌い手それぞれはそれこそ名人芸を心置きなく披露してくれる。
 もちろんタンゴを踊るときもあるし。

 少なからぬひとにインタビューしていくというところは、ドキュメンタリータッチである。
 しかし、ある若い放送関係の女性が、ドキュメンタリーを撮ろうとして、そこにおんじく挫折した映画人を見出し、しだいに惹かれていく。
 恋は燃え上がるのだが、若い女は、仕事をもとめてスペインへと旅立ってしまうというオチ。
 しかしながら、ときは軍政、戒厳令の時代で、銀行預金の引き出しはストップされ、先が見えないときであり、ただ食いつないでいくためだけでも、魅力的な仕事には逆らえなかったということらしい。
 挫折した映画人は、スペインからの息子の帰郷にも接し、生きていく瞬間の意味というものをかみ締める。

 そんなときに、ひとの耳に、こころをしぼり出したようなタンゴの音色がどう響くものなのか。。。
 ああ、昔に生きたい。



http://www.barelchinofilm.com.ar/index2.html


(2008/05/31)