香港映画「Farewell to My Concubine(「さらば、わが愛 覇王別姫」)1993
・「Farewell to My Concubine(「さらば、わが愛 覇王別姫」)、陳凱歌 、香港、1993
京劇は歴史に育まれた舞踊総合アートである。
しかし、パフォーマンス的あるいは音楽的にも、騒々しかったり華美にはしったりで、いわゆるバロック文化の変種ではないかとわたしは思っていた。
だがいうまでもなく、中国文化で長い時間をかけて様式化されてきたもので、それを味わうのもひとつの技であるかもしれない。
昔は芸人さんたちがさげすまれていたというのは知れ渡っている。
しかし芸を仕込むためにどれだけの苦労がなされてきたか、いまからでは想像もできない程度で、この作品でも訓練というよりも虐待にちかい。
幼いころから京劇に身をささげてきたふたりが、王と姫の役、つまり姫のほうは女形ということになるが、京劇の覇王別姫を通じて、大物アーティストになる。
しかし時代は過酷で、浸入してきた日本軍との関係がのちに問われる。
しかも王役はおんなをめとり、姫役は失意をうける。
さらに文革の時代に突入すると、いっさいの倫理を奪われた酷い有様が展開される。
ひとは狂気におちいり、粛清をいかに免れるかのみを考え、ひとを裏切ることが横行する。
それはこの監督の著書「私の紅衛兵時代」にも如実に綴ってある。
あたりまえのことがいっさい通じなかった時代である。
姫役をはじめ、アートは時代に翻弄されることが多いが、アーティストはその点ではいかにももろい存在であり、例外はあるだろうが、惨めな姿をさらしてしまうことがすくなくない。
そんななかで、芸のほうにこそ時代をつらぬく真実があると信じたのが、姫役であったということになる。
この姫役の何重にもおよぶこころのなかの葛藤を見つめよ。
(2008/05/06)