フィンランド映画「MIES VAILLA MENNEISYYTTA(過去のない男)」2002


・「MIES VAILLA MENNEISYYTTA(過去のない男)」、アキ・カウリスマキ、2002、フィンランド

 恥ずかしながら今まで、このアキ・カウリスマキの作品とかかり合うことなくすごしてしまった。
 あるいは有名になるまえに、シネテカのフィンランド映画祭とか、あるいは観ているのかもしれないが、はっきりしない。

 それで夕べは、11チャンネルでの放映ということで、TVでガマンする。

 よく知られているように、なんとも落ち着いた雰囲気である。
 北欧という環境(気候)からして、どこか重苦しいトーンが占めているのはしかたがない。

 災難にみまわれて、瀕死の重傷をおった男が、名前、つまり社会の帰属性をうしなったところで、社会とどういった関係をむすべるのか、が問われている。

 もちろん社会はこの男の存在を拒絶・否認したがる。
 しかし社会のなかには人間がいるわけで、この人間たち、そのすべてとはいわないが、手をさしのべる。
 名はなくても、前向きにいきていけることはできるのだ、と謳いあげている。
 しかも、ひとにとって恋することはどういうことなのか、いかにひとを変えていくのかが、しっとりと、あるいは不器用に語られていく。

 社会的弱者であるから、社会に翻弄されるのはしかたがない。
 しかし、結果的には自分が望んだところに居つくことができる、たとえひとつのアイロニーであろうとも。

 哀愁をおびた流れる音楽が、これまたたまらない。
 ぼくとつに語ることで、これほど人間の姿があらわにされるなんて、ただ見事。


(2008/04/04)