イギリス映画「Copying Beethoven(「「敬愛なるベートーヴェン」)」(2006)

 ・「Copying Beethoven(「「敬愛なるベートーヴェン」)」Agnieszka Holland、イギリス・ハンガリー(2006)

 ベートーヴェンの実像はどうだったのか。苦悩のみであり、なにを糧にして生きていたのか。俗人たるわたしたちには、よくわからないことが少なくない。
 いや、ベートーヴェンの軌跡はやはり辿ることができる。たとえばロマン・ロランが語ってくれるはずだ。
 中学にて図書館でジャン・クリストフをなんとか通読したときは、その巨人ぶりはともかく、その一貫した自己教育に打たれた記憶がある。

 そしていま、まだまだ至らぬ身とはとはいえ、いくらかはベートーヴェンが音楽で示したかったようなことが察知できる。自分の道を築き、そこを邁進した作曲家であったのだ。
 とりわけ、ピアノソナタ、および弦楽四重奏にその軌跡がとりわけ浮き彫りにされている。
 ベートーヴェンを聴くとき、それはベートーヴェンの魂を感じることだ。

 この映画自体は、第九シンフォニーの初演前後を写譜者の女のことの絡み、葛藤を中心に描く。
 以後、より可能性への音楽へと突き進む。ご存知のように聴覚にモンダイをもち、より意識的に可能性への道を突き進む。とりわけラズモフスキー弦楽四重奏シリーズにおいてその試みは顕著になり、当代のひとの共感さえ受けにくくなる。

 映画としてはセンチメンタルに流れるところもあるが、時代と、時代のなかの芸術に与えられた可能性ということについて考えるならば、それなりの意味を持ちえる作品のようである。


 ところでこのポーランド出身の女性映画監督アニェスカ・ホランド、あのギルモアの「心臓を貫かれて」の映画化にも携わっているらしい。


                (2007/04/08)