スペイン映画「Alatriste」 (2006)


 ・「Alatriste」 Agustin Dias Yanes, スペイン・フランス・米国 2006

 スペインでは有名な「剣豪」小説シリーズが映画化。壮大な歴史絵巻。17世紀のスペイン、および北方の諸国。
 歴史的背景としては、強大なスペイン帝国に陰りがさし、北方のプロテスタント諸国に乗り越えられるという歴史の動き、そのなかで主人公のディエゴ・アラトリステも巻き込まれる。

 前半はそれこそベラスケスの絵画そのままのトーンが随所に現れ、その美しさに圧倒される。当時の政治といえば陰謀やら背信やら、醜い世界で染まり、美と不信というそのコントラストは、ひとをやみくもに引きずり込む。

 槍が、馬が、あるいは財宝が、とふんだんに当時の光と影をみせつける。
 ディエゴの仲間に、フランシスコ・ケベドが加わっているのが驚き。じっさい、あんな感じの人物であったのだろうか。

 しかし、こういった絢爛さのなかに巣食っているのが、いわば傭兵ともいうべき男たちの非情な世界。戦いのみで生きていき、ときとして貧窮化を余儀なくされる。絶対に信頼できる後ろ盾があるわけではなく、したがって頼りになるのは自らの腕(と、わずかな仲間)。特殊工作任務もつつがなくこなす。

 ここでひとつ、比較しておきたいのは、たとえば007シリーズのように、英国という絶対的な後ろ盾による活躍というのも、考えてみれば大人気ないかも。あくまでも官僚でしかないし、さいごの寄る辺は確保されているのだから。CIAにしろFBIにしろおなじこと。

 究極のおとこの美学か。
 戦闘あり、活劇あり、人間ドラマあり、恋愛あり。
 スペイン映画としてはかつてないほどの規模(予算的にも)、ハリウッドもまっさお。
 ニホン公開はあやふやな様子。いったん配給がきまったものの、もめているらしい。

 ひだりの写真の中央は、フランシスコ・ケベド。


                  (2007/04/07)