デンマーク映画「En soap」(2006)

「En soap」、Pernille Fischer、2005, デンマーク

(2006年にすでに観た作品であったが、おなじような作品だとは思いながら、ふたたび2008年に観てしまう。しかし感想はかなり似通っている。進歩のない証拠か)


あらためて、男であることと女であること。
 男のヴェロニカはゲイであり、SM系で暮らしをたてる。女のシャルロットは、満たされなさを男を求めて埋めようとするが、じつは夫のところを飛び出てきたばかり。
 ヴェロニカは、女性への性転換への手術の許可を待っている。同じアパートで知り合ったふたりは、はじめはヴェロニカがシャルロットを寄せ付けないが、やがて仲良くなる。
 なぜヴェロニカはゲイになったのか。軍人でもある父親の厳格さに追い詰められたというところがあるらしく、板ばさみになる母親は悩み苦しむ。
 波乱ぶくみの末にシャルトットは、夫のところに戻ることになる。秘かに心が傾きかけていたヴェロニカはどういうことになるのか。
 あらためて、男であることと女であること。
 シャルロットは、かなり男性性に富んでいる。自分から切り開いていこうとする。一方のヴェロニカは、その女性性が目立つ。いっしょにいるときは、それなりに相互補完的なところがあり、かなり相性がよいようにみえた。

 この映画、「トランスアメリカ」という作品によく似通っている。そちらでも、性転換を控えた男の迷いといったものが仔細に描かれていた。そちらでは、とりわけそのエスニック性が後ろで目だっていた。こちらでは男性性と女性性との対比が焦点になっていたと思われる。

 さきのベルリン映画祭でも銀熊賞を受賞。

                (2006/11/26)


シャルロットは夫にたえきれず、ウチを飛び出し、たまたま見かけたアパートに引っ越す。
 夫はよくかんしゃくをおこすが、ただ思慮がたりないだけのようにもみえる。
 シャルロットは下の階のベロニカと親しくなる。
 ベロニカは男で、性転換の許可をまちながら、SMっぽい仕事で暮らしをささえている。
 シャルロットはベロニカと助け合っていこうとする。
 
 シャルロットもおとなの女であるから、おとこがいないとさびしく、しばしば行きずりのおとこと欲望をまぎらす。
 しかしこころの支えとしてベロニカをたよる。

 なぜベロニカがおんなになりたがっているのか、それは家庭事情によるもので、父親の存在がおおいに関係ある。

 シャルロットはベロニカがどんな仕事で暮らしているかを知ってもさげすまない。
 しかし、おんなになるべく許可をまち、そしてついに許可が出ておんなになろうとすると、反撥を感じる。
 そこで夫とよりをもどそうとする。

 ここで問われているのは、シャルロットのアイデンティティであり、おんなのふりをするおとこは許せるが、おんなになってしまうおとこは許せないという地点である。

 さいごには、シャルロットの心変わりの詳細はぼかされる。

 デンマークのようなくにでは、わりとありふれたことであろうし、じじつ、おなじような作品をみたこともすくなくないので、デジャヴー的な印象がつよい。

 しかし、シャルロットは、すごく美しいということはないが、その軌跡、決然としているようではっきりしないところもあって、そのへんが、生々しく、思い惑うことに共感させられる。

 ベルリン国際映画祭にて銀熊賞を受賞している。
 スペイン語タイトルは、「Mi deseo en tu piel(あなたの肌へのわたしの欲望)」

(2008/10/26)