ドイツ映画「「わたしの父、わたしの妻、わたしの愛人」

 「Mein Vater, meine Frau und meine Geliebte(英訳 The man witout life)(「わたしの父、わたしの妻、わたしの愛人」)」Michael Kreihsl、2004、ドイツ

 第一次大戦まえのドイツ。医者の息子(二十歳前)が家のメイドに恋をする。情熱的な恋に身をまかせるが、その年頃のこととて、愛欲の渦にからめとられたようなもの。当然、親には勘当されるが、なんとか自活の道を探しながら愛を全うしようとする。
 無事に元メイドの娘と結婚できたものの、やがて行き違いが生じる。すべて絵に描いたように、よくあること。知人(将校)の娘とも恋する。しかし、けっきょくは、知人の娘は他の将校へと嫁ぐ。
 開戦され、前線へと送り出された青年は、脚をひとつ失うにいたり、さらに自分の生について内省。将校夫人と情事に耽る。いっぽう、青年は精神科医の道を歩む。当時は気が振れたひとたちへの偏見はかなりのもので、精神科医は徒労の仕事とみなされていた。
 やがて将校夫人は結核で亡くなり、生まれたばかりの赤ん坊が残される。はたして自分のものかわからないまま、青年は元メイドの夫人のところに戻り、ふたりの子どもを育てていくことになる。
 父にはその他にも仕事のことで裏切られ、妻と愛人にも裏切られたと感じ、挫折の色に染められながらも、それでもジンセイでなにかを発見し、遂行しようとする。不思議な魅力にあふれている。原作も精神科医の作品らしい。
 なによりも全編のトーンを決定する一人称の語り手のインティメイトな声が痛切。


                  (2006/11/07)