スペイン映画「Te doy mis ojos」(2003)


 ・「Te doy mis ojos」Icíar Bollaín,スペイン(2003)

このスペイン映画、2004年度のスペインのゴヤ賞(スペイン版オスカー賞)を独占。最優秀映画賞、最優秀監督、最優秀男優賞、最優秀女優賞、その他。すごいもんだね。監督は女性、脚本はもうひとりの女性も加わってる。見事に女性からの見方がこめられている。

 スペイン版ドメスティック・ヴァイオレンスの話。
 
 幼い息子を抱えたピラルは家庭での夫アントニオの暴力に堪えきれず、逃げ出す。妹のところに駆け込む。
 アントニオはいわば獣性とでもいう男。しかし、アグレッシヴな夫のための回復講習なんてものを取って、なんとか自分をコントロールしようとは努める。けなげではあるんだけど。

 ピラルのほうも、よくある例で、自分がいないとアントニオがだめになるとか、素行をあらためたとか、で元の木阿弥におさまりもする。
 それでも何度も何度もおなじことの繰り返し。ただ単にDVといっても、心理的に分析するとかなりフクザツな状況が介在していることに気づく。

 重苦しい雰囲気。ピラルは苦しみ、アントニオも自分をコントロールできない状態が続く。

 妹は美術品の修復などを手がけている。そのゆえか、妹の家庭の調度品、掛けてある絵画、デッサンは素晴らしいものばかり。
 それに流れる音楽もクラシック調で、この息苦しさをいくらかなりにも相殺している。
 しかも舞台が、あのトレドである。エル・グレコのトレド。
 ピラルは美術館に勤めだし、しだいに絵画の館内レクチャーにまで進むが、お客の前では自分の前より晴れやかなピラルに嫉妬するアントニオであった。

 アントニオのバイオレンスもエスカレートするばかりでついには、ピラルは同僚に付き添ってもらって、所持品を持ち出すにいたる。その毅然さにアントニオはあっけにとられる。

 そうか、世界広しといえども、どこにでもDVってあるのだな。ロバート・デニーロの「レイジング・ブル」なんかもDVといえそうで、そこではデニーロがいかに自分を克服するか悩んでいる姿もあった。ただバイオレンスの主体を責めているだけではだめなのだな。
 とはいっても、けっきょく回復講習も有益に機能しなかった。ムズカシイところだ。当面はオンナ同士の連帯がより有効なのだろうか。こういう話、ニホンでもよくあって、殺傷沙汰なんかにもなってるよね。
 
 
                    (2006/08/27)