邦画「スパイ・ゾルゲ」2003

 ・「スパイ・ゾルゲ」、篠田正浩 、日本、2003

 第二次戦は回避できたのか。あるいは、ニホンはだれと戦ったのか。あるいはニホンはどこで間違ったのか。

 ニホンはいうまでもなく、戦線を拡大しすぎた。いわば、世界を相手に戦った。イタリア、ドイツ降伏後は文字通り世界が相手。(江戸っ子とすりゃ、きっぷがいいかもしれないけど)

 よくひとが混同しがちなのは、ニホンがどこに負けたかってこと。ふつうのひとは米国に負けたと思ってるけど、どちらかというと中国に負けたんですね。これも高校の世界史で習ったかと思うんだけど、第二次大戦は、帝国主義国間戦争と植民地侵略戦争のふたつの側面があるけど、やっぱりべつべつに考えないといけないみたい。

 ニホンにとっては南進するか北進するかの選択があったと思う。南進のほうがメリットが多いのはあたりまえ。
 北進については、かのノモンハン事変のときにこっぴどくやられてるから、コンプレックスがあったのかもしれない。一般的にはその惨敗って公にされてなかったみたいだけど。

 ニホンの機甲部隊とスターリン機甲部隊とでは、まるで子どもと大人。
 しかしスターリン・ロシアにもコンプレックスはあった。もし地上戦が二またになったら。ドイツとニホンとを相手に同時に戦わなくてはならないとしたら、戦力はいうまでもなく半減される。スターリンはそれを避けたかったと思う。ひとまずドイツを意識し、ニホンとは休戦を装っておく。

 いっぽう、ニホンは中国を、東アジアをむしばみ、米国らは遺憾に思う。石油禁輸措置をとるにまでいたる。
 すると、石油目当てにニホンは南進にやっきになる。中国で苦労しなながら、南進なんてできるわけない。じじつ、あの関東軍は南進で分断され、脆弱化する。

 そこでこの映画に出てくる尾崎秀美は主張したのだ。ニホンは中国から手を引くべきだ。手を引くことで米国などとの国際緊張は緩和され、衝突はどうにか回避される。
 もちろん当時にあっては、ふつうのひとにはナンセンスではあっただろう。とくに軍部にとってはなにがあっても受け入れられる考えではない。
 ここが分岐点だったのではないか。
 ニホンの首脳陣がもっと賢かったら。
 米国らが強硬策に出ず、長期的ヴィジョンによってニホンを説得できたなら。
 きっとありえない仮定だとは思うけど、可能性としては考えられたかもしれない。

 その当時はまだ冷戦までは遠かった。米国らはコミュニスト・ロシアの脅威よりファシズム枢軸で頭がいっぱいだった。
 しかし、もしも連合国側でファシズム国家よりコミュニスト国家のほうが将来的にみれば脅威度が高いと判断していたならば。
 米国らがニホンに対して、中国やアジアよりシベリアへの道をとるべきだと説得に成功していたならば。
 そこにおいてゾルゲはどんな役割をもっただろうか。
 そういう歴史的ロマン(それ、ロマンなの?)を考えさせた映画だった。

 と、ここで総括。だからどうなんんだ、とつい自問してしまう。いまから見れば、すべて夏草や、つわものどもが夏の夢、って具合だし。もしニホンがスターリン・ロシアに喰いついていたら、世界史はどうかわったのか。資本主義万々歳? または、資本主義の世界的ムジュンの同時的発生により、擬似世界革命? アドバルーンだけは威勢がいいけどね。どうも後味がよくない。
 それに、半藤昭和史もまだ読んでないわたしであるし。

             
                        (2006/04/15)