ハンガリー映画「Delta」(2008)

・「Delta」Kornél Mundruczó、ハンガリー(2008)

 ミハイルという若いおとこが、ドナウ河の河口あたりの町へ帰ってくる。
 長い間、故郷を不在にしていてまず母親に会おうとする。
 しかし母親は愛人と暮らしていて、ミハイルの場所はなかった。
 しかもファゥナという妹がいることを知り、対面する。
 とりあえずは、父親の遺した河口の湿地帯の小屋におさまる。

 愛人はお金が豊富らしく、母親はいなかのみずぼらしいカフェ・バーを切り盛りする。
 妹はその店を手伝うが、どこか居心地がわるそう。
 ミハイルが小屋のそばに家を建てることを知って失踪する。
 小さな町で、兄妹がいっしょに住むことに暗黙の非難が押し寄せる。
 母親はもちろんであるが、義理の父親は出奔途中のファゥナを力づくで犯すにいたる。

 しかし、ふたりは地道に家を作り上げ、自給自足にちかい、朴訥なかたちを暮らしをまもっていこうとする。
 ミハイルにもつらい過去があるらしく、動物園で働いていたが、若い身重なおんなが舞い込んできて介抱、しかし死産ののちおんなは行方をくらましたらしい。

 漁が好況なとき、ふたりは町の者をよんで飲み食いのパーティーをもよおす。
 しかしファゥナは町の野卑な若者たちに犯され、激昂したミハイルも死に追いやられる。

 ひっそりとだが、タブーに生きたふたりは、やさしく見守るようなひとたちもいた一方で、こころないひとたちに無残にかき消されてしまう。
 掛け値なしの、地方の現実といったものを反映させている。
 きわめて時間の遅いテンポであり、全体が寡黙、田園叙情調にみちている。


 カンヌにて「批評家連盟賞」を受賞。


(2008/11/17)